東京地方裁判所 平成4年(ワ)15537号 判決
亡渡辺美智雄訴訟承継人
原告
渡辺すみ子
同
渡辺喜美
同
渡辺一
右法定代理人親権者
渡辺すみ子
亡渡辺美智雄訴訟承継人
原告
渡辺美千明
同
渡辺美由紀
右五名訴訟代理人弁護士
岡村勲
同
京野哲也
同
亀山晴信
同
續孝史
同
相葉和良
被告
株式会社東京放送
右代表者代表取締役
磯崎洋三
右訴訟代理人弁護士
松尾翼
同
奥野泰久
同
内藤正明
同
西山宏
同
辰野守彦
同
萩原新太郎
右弁護士辰野守彦訴訟復代理人弁護士
小高賢
主文
一 被告は、原告渡辺すみ子に対して一〇〇万円、原告渡辺喜美、同渡辺美千明、同渡辺美由紀及び同渡辺一に対して各金二五万円及び右各金員に対する平成四年九月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、これを五分し、その一を被告の負担とし、その余を原告らの負担とする。
四 この判決は、一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 請求
一 被告は、讀売新聞全国版、朝日新聞全国版、毎日新聞全国版及び日本経済新聞全国版に、別紙一記載の謝罪広告を同記載の条件で一回以上掲載せよ。
二 被告は、TBSテレビ放送番組中において、別紙二記載の謝罪声明を同記載の条件で放送せよ。
三 被告は、原告渡辺すみ子に対して二五〇万円、原告渡辺喜美、同渡辺美千明、同渡辺美由紀及び同渡辺一に対して各六二万五〇〇〇円及び右各金員に対する平成四年九月二一日(訴状送達の日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
一 本件は、国会議員かつ国務大臣であった訴訟承継前の原告亡渡辺美智雄(以下「亡渡辺美智雄」という。)が、被告がテレビで放映したニュース番組によって名誉を毀損されたとして、被告に対して、不法行為に基づき謝罪広告、謝罪放送及び慰謝料を請求した事案である。なお、亡渡辺美智雄は、平成七年九月一五日に死亡し、同人の相続人である原告らが訴訟を承継した。
二 争いのない事実等
1(一) 亡渡辺美智雄は、昭和三八年一一月二一日に衆議院議員に初当選し、その後、連続して一一回当選し、歴代内閣において、厚生大臣、農林水産大臣、大蔵大臣、通商産業大臣等を歴任し、平成四年八月二七日当時、副総理兼外務大臣の職にあり、また、自由民主党内においても、幹事長代理、政務調査会長等の要職にあった者であるが、平成七年九月一五日に死亡した。亡渡辺美智雄の相続人は、妻である原告渡辺すみ子、実子である原告渡辺喜美、同渡辺美千明、同渡辺美由紀、養子である原告渡辺一の五名である。
(二) 被告は、放送法による一般放送事業等を営む民放大手の株式会社であり、全国ネットワークを有し、TBSの名称でテレビ放送(以下単に「放送」という。)を行っている。
2 被告は、平成四年八月二七日午後六時から放送の「ニュースの森」において別紙三の一記載の放送(以下「①放送」という。)を、同月二八日午後六時から放送の「ニュースの森」において同三の二記載の放送(以下「②放送」という。)を、同月二八日午後一二時ころから放送の「ニュース23」において同三の三記載の放送(以下「③放送」という。また、①②③放送を合わせて「本件各放送」という。)を行った(乙一、同二及び検証)。
三 争点
1 本件各放送は、亡渡辺美智雄の名誉を毀損するものか。
(原告らの主張)
本件各放送は、東京佐川急便株式会社(以下「東京佐川急便」という。)の元社長である訴外渡辺広康(以下「渡辺元社長」という。)が、亡渡辺美智雄に対し、裏金として一億円の現金を渡したという内容である。本件各放送が流された時期は、その前年に佐川急便グループが暴力団系企業に巨額の債務保証をしたなどの事実が発覚し、それ以降、いわゆる平和堂ルートを初め、連日のように佐川急便問題がマスコミに取り上げられ、佐川急便問題が国を揺るがす一大スキャンダルとなっていた時期であり、特に、本件各放送が行われた平成四年八月二七、二八日は、同月二二日に、朝日新聞が自由民主党副総裁であった訴外金丸信に対する五億円の資金提供をスクープとして報じ、同人が辞任した直後であった。このような時期に、前記内容の本件各放送を流すことは、亡渡辺美智雄が、佐川急便問題のスキャンダルに関与していたか、あるいは、賄賂等不明瞭な資金提供を受けたかの印象を視聴者に与えるものであって、亡渡辺美智雄の名誉を毀損するものである。
(被告の主張)
(一) 本件各放送の趣旨
本件各放送は、渡辺元社長が東京地検特捜部の取調べに対してなした供述(以下「本件供述」という。)の報道であって、同人が亡渡辺美智雄の議員会館事務所に紙袋に入れた現金一億円を持参したという本件供述の内容についてその事実を断定したものではない。そのことは、本件各放送において、何度も「渡辺元社長の供述である。」と明確に表現していることからも明らかである。②、③放送において、ナレーションと並行して前記のような映像が流されているが、映像よりもナレーションの内容の方が具体的であり、ナレーションでは、渡辺元社長の供述であると明言しているのであるから、前記の映像は、供述の範囲を出るものではない。また、①放送において、「東京地検特捜部では、渡辺供述の信用性については自信を深めている模様です。」、「夏前には基本的な裏付けを終えて、東京高検、最高検に対しても渡辺元社長の巨額の資金提供状況について数回に亘って詳細に報告しています。」との表現がされているが、それは、本件供述についての客観的な事実関係あるいは検察側の評価を報じたものであって、金銭授受の事実を断定的に印象付けたり、権威付けたりしたわけではない。
(二) 供述の内容
本件各放送は、本件供述の内容となっている金銭授受の事実が犯罪行為に該当するか否かについて触れておらず、渡辺元社長の係属中の被告事件との関連についても言及していない。また、「裏金」との表現が使われているが、それも、東京佐川急便の勘定上の「裏金」であることは文脈上明らかであり、供述中の受領した側の処理を断定したものではない。
(三) 報道手法
渡辺元社長は、平成三年七月に東京佐川急便の代表取締役を解任され、平成四年二月一四日に逮捕され、その後、特別背任罪で公訴を提起されたのであって、その間、同人に対する直接取材が不可能であったため、同人に対する取材及び報道が、同人の東京地検特捜部の取調べに対する供述といういわゆる間接取材にならざるを得なかったのであり、そのような報道手法も正当である。
(四) 政治家の名誉
昭和六〇年六月二五日に衆議院で、同年一〇月一四日に参議院でそれぞれ採択された政治倫理綱領に「われわれは、政治倫理に反する事実があるとの疑惑がもたれた場合には、みずから真摯な態度をもって疑惑を解明し、その責任を明らかにするよう努めなければならない。」という一文がある。亡渡辺美智雄は、東京佐川急便問題において、被告人の捜査段階での供述中に自分の名前が挙がっていると報じられたのであるから、自ら真摯な態度で疑惑を解明するように努めなければならず、そのことが国会議員としての職責を全うすることでもある。
(五) 反論の機会
被疑者又は被告人の供述内容が報道の対象となった場合に、当該供述中に名指しされた人物の名誉を毀損するかどうかは、当該供述内容だけでなく、供述に係る事実の内容、名指しされた人物がいかに反論を行い得る立場にあるか、提起された問題に対していかなる対処をすべきかなどを総合的に判断して決せられるべきであるところ、本件各放送において、亡渡辺美智雄の事務所のコメント(①放送)、亡渡辺美智雄本人のコメント(②、③放送)を放送しており、また、亡渡辺美智雄は、数多くの報道機関に対して、本件供述内容を否定する発言を行っており、平成四年九月八日の参議院決算委員会においても、右事実関係を否定する答弁をし、それが全国に放映されている。
(六) 以上のとおり、本件各放送は、政治家への金銭の流れに関する渡辺元社長の供述という極めて公的な事実について、現職の国務大臣という極めて公共性の高い地位にある亡渡辺美智雄についてなされた報道であって、その内容が、渡辺元社長の供述という客観的事実のみの報道であるところ、右供述は、当時、東京佐川急便の政治献金の問題が国会の最重要関心事であったことから、渡辺元社長の動静、言動には強い関心が寄せられており、右供述自体が報道価値を有するものであるのみならず、しかも、供述の報道という手法も正当である。そして、亡渡辺美智雄に取材して反論も併せて報道しているのであるから、本件各放送は、亡渡辺美智雄にとって受忍限度の範囲内に止まり、名誉毀損は成立しない。
(被告の主張に対する原告らの反論)
(一) 本件各放送は、①放送では、結論部分を簡潔に述べるリードにおいて、「資金提供先の全容が明らかになった。」とした上、渡辺元社長が裏金で捻出した金を亡渡辺美智雄に対して直接手渡したとされていると放送し、また、最後に、東京地検特捜部は、「供述内容に自信を深め」「既に、基本的裏付けを終えて、東京高検、最高検に対しても渡辺元社長の巨額の資金提供状況について数回に亘って詳細に報告しています。」と放送し、②放送では、リードにおいて、「今日は、……現金の授受の状況が明らかになりました。」とした上、前記のような映像を流すなどして、具体的かつ迫真性をもって放送し、③放送では、冒頭において、赤テロップで「裏金の流れ」との見出しを映し、リードにおいて、「現金の受渡しの状況が関係者の証言等から明らかになりました。」とした上、②放送と同様の再現映像と一億円の授受の具体的かつ詳細な状況について放送し、さらに、男性キャスターが、いわゆる「ひそみ発言」をし、その後、現金一億円を袋に入れる実演を行い、「こうした『闇献金』……」と述べた。
(二) 被告は、「本件各放送は供述の報道であって、資金提供の存否を報道したものではない。」と主張するが、以上のような内容からすれば、本件各放送が、視聴者に対して、亡渡辺美智雄が渡辺元社長から一億円を受け取ったという印象を与えるものであることは明らかである。仮に、本件各放送が、渡辺元社長の供述を報道したものであっても、その供述内容を伝えていることは事実であるから、事実摘示が供述の内容にも及んでいることは明らかである。そもそも、事実摘示の内容として、供述それ自体とその内容を切り離すことは不可能であり、視聴者もそれを区別してテレビを見るわけではないのであるから、被告の右主張は、観念論にすぎない。
もっとも、被告が、視聴者をして一億円の授受があったとの印象を持たれない程度にまで本件供述の内容の信用性を減殺したような場合には、その報道によって亡渡辺美智雄の社会的評価は低下しないといえるから、名誉毀損は成立しないが、本件各放送は、そのような場合にあたらない。
(三) 被告は、本件各放送において、犯罪行為あるいは犯罪被疑事実に触れていないと主張するが、政治家が疑惑の渦中にある佐川急便から一億円の札束を受け取ったという事実は、当該政治家の社会的評価を低下させるものであることは明白であり、また、被告は、政治家は疑惑について自ら解明すべきであるということや、亡渡辺美智雄の反論も併せて報道していることを名誉毀損不成立の根拠に挙げているが、独自の主張であり、理由とならない。
2 本件各放送について、真実性の証明あるいは真実と誤信したことについて相当の理由があったか。
(被告の主張)
(一) 本件各放送は、国政に重要な影響を及ぼす東京佐川急便事件における政界への金銭の流れに関し、渡辺元社長の捜査段階での供述を報道したものであって、公共の利害に関する事実であり、しかも、被告は、国民の知る権利に奉仕するために本件各放送を行っているから、専ら公益を図る目的に出たものである。
(二)(1) 本件各放送は、渡辺元社長から亡渡辺美智雄への金銭提供の事実を報道したものではなく、渡辺元社長が捜査機関に対して行った供述を報道したものであるから、真実性の証明の対象も右供述の存在で足りるというべきである。
(2) 被告は、佐川急便事件について、平成三年八月から特別取材班を結成し、社会部の内勤九名、司法記者クラブの四名、その他系列のJNN各局の社会部系の部員の応援を得て、平成四年初めには二〇名を超える人員で活動するようになった。そして、佐川急便及び東京佐川急便関係では、佐川清会長に対するインタビュー、会社のOB、関連会社、融資銀行、渡辺元社長の側近及び周辺の人々の取材を行い、捜査機関では、司法記者クラブのほか、地方検察庁、高等検察庁、最高検察庁、法務省、警視庁において取材し、さらに、渡辺元社長の弁護団、政界関係者、国税庁、運輸省も取材の対象としている。
被告は、平成四年五月下旬に本件供述に関する情報を入手し、同年六月上旬までに右情報の全容を入手したが、右情報入手にあたっては、単に一回のみの取材ではなく、数回に亘る取材を行ったのであって、当初基礎となった情報源だけでなく、複数の情報源から裏付けをとっており、しかも、右情報源は、検察関係を含む信用性の高いものであった。また、本件供述の内容についても、それまで取材した内容と矛盾しているところはないか、供述自体矛盾していないかとの観点から吟味している。
したがって、本件供述が存在したことは明らかである。
(三) 仮に、本件供述の存在について、真実であると証明するに足りないとしても、被告は、前述のとおり、その当時として考えられる最も広範で綿密な取材活動を行い、極めて信用性の高い情報を得て、本件供述が存在すると確信していたのであるから、本件供述が存在すると誤信したことについて相当の理由がある。
(原告らの主張)
(一) 前述のとおり、供述の報道と事実の報道は本来区別が不可能であり、本件各放送は、視聴者に対して、亡渡辺美智雄が渡辺元社長から一億円を受け取ったとの印象を与えるものであるから、真実性の証明の対象は、本件供述の存在だけでなく、本件供述の内容である金銭授受の存在についても及ぶ。
被告は、金銭授受の存在について、その真実性の証明をしていないのであるが、本件供述が存在したことについても、渡辺元社長が公判廷で本件供述をしていないと断言していることからしても疑わしく、その存在の証明もない。
(二) 右金銭授受について、被告が誤信したことについて相当な理由はなく、本件供述の存在についても、誤信したことについて相当の理由があったとはいえない。
3 謝罪広告、謝罪放送及び損害賠償
(原告らの主張)
(一) 本件各放送の時期は、佐川急便問題が連日マスコミにおいてスキャンダラスに取り上げられており、政治家と金のつながりについて、国民的関心が高まっていた時期であり、そのような時期に本件各放送を行うことは、亡渡辺美智雄が渡辺元社長から違法な政治献金を受け取ったかのような印象を国の内外に与えるものである。亡渡辺美智雄は、当時外務大臣の要職にあり、その信用低下は、内閣に対する信用低下につながり、ひいては、国の信用を毀損し、国際関係に悪影響を及ぼすこととなる。本件各放送は、その内容から、視聴者に鮮烈な印象を与えるものであって、亡渡辺美智雄に対する悪印象は未だに消えていない。マスコミによって多数の国民に誤った情報が与えられたことにより国務大臣の名誉が毀損された場合には、マスコミによって多数の国民に真実が伝えられなければ、当該国務大臣の名誉は回復し得ない。したがって、本件においては、名誉回復措置として謝罪広告及び謝罪放送が必要である。
なお、本件各放送が被告のテレビ放送を通じてなされたのであるから、被告が同じ放送局の同じ番組中で謝罪する義務のあることは当然であるが、同一の番組を見ない視聴者もいることをも併せ考えると、印刷媒体を用いて謝罪広告をなす必要がある。
(二) 本件各放送により、亡渡辺美智雄は疑惑の渦中にある佐川急便から一億円もの大金を受け取ったとの印象を一般視聴者に与えたのであるが、右金銭授受の事実は全くなく、本件各放送により亡渡辺美智雄の名誉は著しく傷つけられ、同人の被った精神的損害は計り知れないものがあり、その額は五〇〇万円を下らない。
(被告の主張)
本件各放送後、亡渡辺美智雄は、国会での答弁のほか、新聞、テレビ、週刊誌等多くの媒体において、東京佐川急便から金銭を受け取っていないと言っており、引き続き外務大臣の地位にあったのみならず、平成五年七月の総選挙では前回を上回る得票数を獲得して一位で当選し、自己の主宰する派閥を維持していたのであるから、仮に、本件各放送により名誉毀損があったとしても、損害はない。少なくとも、名誉回復措置としての謝罪広告及び損害賠償を認める必要はない。
4 謝罪広告請求権の相続
(被告の主張)
名誉毀損に対する救済措置としては、金銭賠償が原則であって、謝罪広告は、金銭による損害賠償では填補されない場合に限られる限定的かつ例外的なものである。また、謝罪広告により名誉毀損の事実が公表されると、被害者において精神的苦痛を伴うこともある。さらに、民法七二三条が「被害者ノ請求ニ因リ」と規定しているのは、特に被害者の意思を決定要因としているからである。以上に鑑みると、謝罪広告請求権は、当該被害者にのみ与えられた一身専属的な権利であるというべきである。
したがって、謝罪広告請求権は、被害者が死亡すると消滅するものであり、このことは、人格権たる名誉権が権利享有主体の一身に専属する権利であって、当該被害者の死亡に伴い消滅すると解する現行法の見解とも合致する。すなわち、名誉権の消滅と共に名誉権の回復を目的とする謝罪広告請求権も消滅すると考えるのが相当である。
また、死者の人格権については、立法により特に保護されている場合を除き否定的に解されている以上、死者の名誉毀損を理由とする謝罪広告請求権を認めることはできないのであって、謝罪広告請求権が相続されるとすれば、受継した相続人が、被相続人への謝罪を求めるものとなり、それは、死者に対する名誉回復措置を求めるのと同義であり、現行法体系と矛盾する。
さらに、亡渡辺美智雄を対象とする名誉回復措置は不可分なものであるところ、共同相続人間で名誉回復措置を求める者と求めない者とがいる場合には、各自の意思の調整ができないことになり、相続法体系とも矛盾するし、原告らは相続人でありながら、謝罪の対象は被相続人ということになり、当事者の名誉回復を目的とする謝罪広告請求訴訟の本質にも反することになる。
したがって、謝罪広告請求権は、相続の対象とはなり得ない。
(原告らの主張)
本件においては、亡渡辺美智雄は、その生存中に訴えを提起し、名誉回復措置として謝罪広告を請求したのであるから、民法七二三条の「被害者ノ請求ニ因リ」の要件は満たしている。また、謝罪広告請求権は、具体的な給付請求権となっており、謝罪広告が低下した信用を回復させて損害を救済することにより被害者に有形、無形の利益をもたらすのであることに照らしても、右請求権は、財産的な権利でもあるといえるから、当然に相続の対象となり得る。
被告は、「死者に対する名誉回復措置を認めることになるから、現行法体系と矛盾する。」と主張するが、我が国の法体系は、死者の名誉権を認めており、何ら矛盾することはない。また、「名誉回復請求権は不可分のものであり、共同相続人間で名誉回復措置を求める者と求めない者がいる場合には、相続法体系と矛盾する。」と主張するが、共同相続人は一致して権利行使をしなければならないとする相続法上の根拠はない。さらに、「当事者の名誉回復を目的とする謝罪広告請求訴訟の本質に反する。」と主張するが、本件のように被害者本人が生存していない場合では、右主張は当てはまらない。
第三 争点に対する判断
一 争点1(本件各放送は、亡渡辺美智雄の名誉を毀損するものか。)について
1 放送において、その内容が名誉毀損にあたるかどうかは、一般視聴者を基準として、放送において取り上げられた者の社会的評価がその放送によって低下するかどうかという視点で判断されるべきである。被告は、本件各放送は、渡辺元社長の捜査機関に対する供述の報道であって、供述内容に係る事実を断定したわけではなく、亡渡辺美智雄の反論も併せて放送していることなどを根拠として、名誉毀損にはあたらないと主張する。しかし、供述内容に係る事実を断定しておらず、亡渡辺美智雄の反論を併せて放送したとしても、本件各放送の内容を全体的に考察し、かつ、本件各放送が行われた時期、亡渡辺美智雄の地位等を総合し、一般視聴者を基準として、亡渡辺美智雄の社会的評価を低下させるようなものであれば、名誉毀損が成立するものと解するのが相当である。
2 そこで、これを本件各放送の内容について検討すると、本件各放送の内容は、いずれも渡辺元社長の捜査機関に対する供述であるとの指摘部分がある。しかし、通常の場合、一般視聴者において逮捕された者の捜査機関に対する供述の報道とその供述内容に係る事実の報道とを明確に区別して事実の真否を判断しているとは考え難い。しかも、①放送においては、「東京地検特捜部では、渡辺供述の信用性については自信を深めている模様です。」「夏前には基本的な裏付けを終えて、東京高検、最高検に対しても渡辺元社長の巨額の資金提供状況について数回に亘って詳細に報告しています。」と報道して、供述の内容自体の信用性を高めており、②、③放送においては、ナレーションと共に供述内容の再現と思われる映像を流しており、また、③放送においては、男性キャスターが、亡渡辺美智雄の右供述内容を否認するコメントに対して、右コメントはにわかに信用できず、事実関係を明確に示すことを促す趣旨のコメントを付け加えており、さらに、一億円の札束を紙袋に入れる実演を行っている。右の諸点に鑑みると、本件各放送は、一般視聴者に対し、亡渡辺美智雄が渡辺元社長から紙袋に入った現金一億円を受け取ったのではないかとの印象を与えるものといわざるを得ない。
もっとも、本件各放送において、被告は、亡渡辺美智雄の事務所の反応及び亡渡辺美智雄本人の右事実を否認するコメントを併せて放送しているが、本件各放送で放送された程度の反論では、一般視聴者をして前記印象を低減あるいは払拭させるには至らないというべきであるから、本件各放送の内容を全体としてみた場合には、一般視聴者に対し、前記印象を与えるものといわざるを得ない。
3 そして、証拠(甲二、乙三ないし一〇、同一七、同一八、同一九の一及び二、同二〇ないし二三、同二四の一ないし三並びに弁論の全趣旨)によれば、本件各放送が行われた時期は、その前年に佐川急便グループの巨額の債務保証の問題から佐川急便問題がマスコミに取り上げられるようになり、その後、渡辺元社長が特別背任罪の容疑で逮捕され、佐川急便問題が一大スキャンダルとなっていた時期であり、政界への資金提供も取り沙汰されていたのであって、特に、本件各放送が行われた平成四年八月二七、二八日は、訴外金丸信に対する五億円の資金提供が報道され、同人が五億円の献金を認めて副総裁を辞任した直後の時期であったことが認められる。
4 かかる時期に、現職の国務大臣であった亡渡辺美智雄が渡辺元社長から紙袋に入れられた現金一億円を受け取ったとの印象を与える放送を行うことは、亡渡辺美智雄が違法な政治献金あるいは賄賂等の不正な金銭を受け取ったかの印象を一般視聴者に与えることにもなるから、亡渡辺美智雄の社会的評価を低下させるものというべきである。
5 したがって、本件各放送は、亡渡辺美智雄の名誉を毀損するものであると認められる。
二 争点2(本件各放送について、真実性の証明あるいは真実と誤信したことについて相当の理由があったか。)について
1 前記のとおり、本件各放送は、特別背任罪の容疑で逮捕された渡辺元社長の現職閣僚である亡渡辺美智雄に対する現金一億円の資金提供に関する報道であるから、その内容が公共の利害に関するものであることは明らかであり、しかも、本件各放送の内容及び被告の報道機関としての社会的使命に照らせば、その報道が専ら公益を図る目的に出たものであると認められる。
2(一) 前判示のとおり、本件各放送は、一般視聴者に対し、亡渡辺美智雄が渡辺元社長から現金一億円を受け取ったのではないかとの印象を与えるものであり、そのことが亡渡辺美智雄の杜会的評価を低下させるのであるから、真実性の証明によって、各放送行為の違法性が阻却されるためには、亡渡辺美智雄が渡辺元社長から現金一億円を受け取ったという事実が真実であるとの証明あるいは被告において右事実が真実であると誤信したことにつき相当の理由があることが必要である。
これに対し、被告は、本件各放送の報道対象は渡辺元社長の捜査機関に対する供述であるから、真実性の証明の対象も右供述の存在であると主張する。しかし、本件各放送が渡辺元社長の供述を報道したものであるとしても、前述のとおり、一般視聴者が右供述の内容を事実であろうとの印象を持ち、その結果、亡渡辺美智雄の社会的評価を低下させるのであるから、真実性の証明の対象も、本件供述の内容にまで及ぶと解すべきである。
(二) そこで、右の見地に立って、まず、本件供述の内容について真実性の証明があるか否かを検討する。
証拠(乙一一、同一四ないし一七、同二六ないし二九の各一及び二、証人城所賢一郎、同西村陸)によれば、次の事実が認められる。
(1) 被告は、平成三年八月ころから、報道局社会部に佐川急便事件特別取材班を編成し、本格的に同事件の全容についての調査活動を開始した。その後、他の部員等の応援もあり、同事件について強制捜査が始まった平成四年初めころには、二〇名を超える規模で活動が行われていた。
(2) 本件各放送に関する取材は、平成四年五月未ころ、渡辺元社長が自由民主党の大物クラスの名前を挙げているという情報を担当記者が入手したことがその端緒となった。その後右記者が同年六月上旬に入手した情報によれば、渡辺元社長が中央政界に献金した状況を詳細に供述しているとされ、その中に亡渡辺美智雄に関する情報も含まれていた。
(3) 右記者からの報告を受けた被告の社会部では、同年六月から八月初旬までの間に、検察関係者を含む複数の裏付け取材先に対し確認取材を行い、被告は、同年八月一三日、政治家の名前を匿名としたまま渡辺元社長の供述について報道した。
(4) 被告は、右報道後の視聴者からの反響等を踏まえ、右供述中の政治家の実名報道について検討することとし、訴外金丸信に対する五億円の資金提供が報道された同年八月二二日から同月二六日までの間に、供述自体が確かに存在するか否かの再確認、本件供述の内容に従来の取材内容と矛盾した点はないかの確認、供述内容自体に自己矛盾はないかの確認等を行ったほか、当該政治家自身の主張を取材した。しかし、右確認作業等においては、供述内容の信用性よりも供述の存否に重点がおかれていた。なお、渡辺元社長は、当時身柄を拘束されていたため、同人に対して取材することはできなかった。そして、同人の逮捕後同年八月までの間に、捜査当局から本件供述について公式に発表されたことはなかった。
(5) ①放送が行われた日の翌二八日午後四時ころ、亡渡辺美智雄から被告に対し、抗議の電話があった。また、本件各放送後、渡辺元社長は、公判廷で本件供述の存在を否定した。なお、本件供述については、同年八月二七日に発売された週刊誌一誌が亡渡辺美智雄に関する実名記事を掲載したが、他のメディアは、いずれも匿名で報道した。そして、同年一一月四日の衆議院本会議において、総理大臣及び法務大臣は、東京佐川急便から一〇数人の国会議員に二〇数億円が渡ったとの報道について、訴外金丸信に対する五億円を除き、犯罪の嫌疑ありとして訴追するに足りる事実が確認できない旨答弁した。
右認定の事実関係によれば、本件供述の内容について、その事実が真実であるとの証明がなされたとは認められない。
(三) また、前記認定に係る事実関係の下においては、被告が真実と誤信したことについて相当の理由があるとも認められない。
付言するに、被告は、本件各放送の端緒となった情報源について明らかにしない。いうまでもなく、民事訴訟においても、報道機関である被告には取材源秘匿の必要性が認められる。しかしながら、放送による名誉毀損に基づく損害賠償訴訟において、右取材源秘匿の必要性を根拠に、不法行為の違法性阻却事由の一つとされている放送内容に係る事実を真実と誤信したことについての立証の程度を緩和することはできないと解すべきである。そして、本件供述に関する取材源が明らかにされていない本件の場合に、前記認定に係る事実関係、殊に、被告の本件供述に関する前記情報確認作業等において、供述内容の信用性よりも供述の存否に重点がおかれていたことに鑑みると、被告が右供述内容に係る事実を真実と誤信したことについて相当の理由があると認めることはできない。
3 以上のとおり、本件各放送について、真実性の証明はなされておらず、被告が真実と誤信したことについて相当の理由があるとも認められない。
したがって、被告は、亡渡辺美智雄に対し、本件各放送により同人が被った精神的苦痛による損害について不法行為責任を負うものといわなければならない。
三 争点3(謝罪広告、謝罪放送及び損害賠償)について
1 証拠(乙一〇、同一九の一及び二、同二〇、同二一並びに弁論の全趣旨)によれば、本件各放送後、亡渡辺美智雄は、国会での答弁のほか、新聞、テレビ、週刊誌等多数のメディアにおいて、渡辺元社長から一億円を受領した事実を否定して反論を行い、また、本件各放送後も外務大臣の地位にあったのみならず、その後の総選挙において当選し、平成七年九月一五日に死亡するまで国会議員として活動を続けてきたこと、平成四年一一月四日の衆議院本会議において、総理大臣及び法務大臣は、東京佐川急便から一〇数人の国会議員に二〇数億円が渡ったとの報道について、訴外金丸信に対する五億円を除き、犯罪の嫌疑ありとして訴追するに足りる事実が確認できない旨答弁し、これについてテレビ、新聞等で広く報道されたこと、以上の事実が認められ、右諸事情に鑑みると、現時点において、名誉回復の措置として謝罪広告及び謝罪放送を命ずるまでの必要性は認められない。したがって、争点4(謝罪広告請求権の相続)についての判断を要しない。
2 前判示の諸般の事情を考慮すると、本件各放送によって亡渡辺美智雄が被った精神的苦痛に対する慰謝料としては、二〇〇万円が相当である。
そうすると、原告らは、亡渡辺美智雄の死亡に伴い、同人の右慰謝料債権を相続分(原告渡辺すみ子が二分の一、その余の原告らが各八分の一)に応じて相続により承継取得したことになる。
3 したがって、被告は、不法行為に基づき、原告渡辺すみ子に対して一〇〇万円、原告渡辺喜美、同渡辺美千明、同渡辺美由紀及び同渡辺一に対して各二五万円及び右各金員に対する不法行為の日である平成四年八月二九日の後である同年九月二一日(訴状送達の日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
第四 結論
叙上の次第で、原告らの請求は、主文一項の限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官飯田敏彦 裁判官田中治及び裁判官井上直哉は、転任のため署名押印ができない。裁判長裁判官飯田敏彦)
別紙一、二〈省略〉
別紙三の一
① 放送
(男性キャスター)
東京佐川急便事件政界ルートでは、渡辺広康元社長が中央政界一二人に総額二二億円余りを提供した疑惑が明らかにされていますが、、私どもでは、渡辺元社長が、その提供先や状況など詳細に語った東京地検特捜部に対する供述内容の全容を入手しました。名指しされた政治家サイドは、取材に対して、一様に否認しておりますが、これまで全面否認してきました自民党の金丸信副総裁が、先ほどその事実を認めて辞任したことに続いて、資金提供先の全容が明らかになったことは、「政治と金」という問題を巡り、政界はもちろん各方面に大きな波紋を呼びそうです。
(女性キャスター)
今年二月一四日、特別背任の容疑で東京地検特捜部に逮捕された東京佐川急便の渡辺元社長は、佐川急便グループの佐川清会長から田中角栄氏を紹介されたのをきっかけに政界との関係を深めました。東京拘置所の調べ室で、渡辺元社長は、当初、政治家との関わりについて供述を拒んでいましたが、その後、会社の裏金で捻出した金を政治家に直接手渡した状況について重い口を開いたということです。
(中略)
(男性キャスター)
この他の一一人の政治家についても、渡辺元社長は、受渡しの時期や場所、その他の状況を詳細に供述しておりますが、そのすべてのケースが、自分自身で自分のベンツを運転して直接現金を持参していること、また、ほとんどのケースで一億円毎に紙製の手提げ袋に入れて持参して、秘書や政治家本人に国会の議員会館や事務所、それに料亭などで手渡したとされています。
(中略)
渡辺美智雄外務大臣には、議員会館で一億円。(中略)これが、渡辺広康元社長が供述した八九年から九一年までの中央政界への資金提供の全容です。
(女性キャスター)
今回明らかになった資金提供の内容について、各事務所では、次のように話しています。
(中略)
渡辺事務所、「そんなはずはない。冗談じゃない。でたらめだ。一億円、何を証拠にそんなことを言っているんだ。これ以上コメントはできません。」
(中略)
(男性キャスター)
なお、東京地検特捜部では、渡辺供述について、密室でのやり取りだけに慎重な裏付け捜査を進めておりますが、渡辺供述の信用性については自信を深めている模様です。そして、既に、夏前には基本的な裏付けを終えて、東京高検、最高検に対しても渡辺元社長の巨額の資金提供状況について数回に亘って詳細に報告しています。今後の中央政界ルートの捜査の行方も注目されます。
(以下略)
別紙三の二
②放送
(女性キャスター)
次は、東京佐川急便事件政界ルートのニュースです。昨日この時間で紹介した政治家一二人に対して二二億円を提供したという渡辺広康元社長の東京地検に対する供述内容は、各方面に大きな波紋を引き起こしました。これが、昨日お伝えしました資金提供リストです。
このうち、今日は、渡辺元社長が一億円を提供したという渡辺美智雄外務大臣、
(中略)この二人の現職閣僚に対する現金授受の状況が明らかになりました。
(ナレーション)
渡辺美智雄氏との関係について、東京佐川急便の渡辺広康元社長は、「本来なら佐川清会長と親しい人」とした上で、九〇年暮れか次の年の初めに、佐川会長から、「渡辺先生が自分に会いたいと言っている。一億円でいいだろう。そちらで処理してくれ。」と電話が入ったという。
そこで、渡辺元社長は、自分のベンツに乗って議員会館の渡辺事務所を訪ね、手提げ袋に入れた一億円を渡した。このとき渡辺氏は不在で、面識のない秘書が対応したので、「手提げ袋に自分の名刺を張り付けておいた。」と供述している。
その後、会社に渡辺氏本人からお礼の電話があった際、渡辺元社長は、「お礼なら、京都の佐川会長に言ってください。」と話したという。
(ナレーションと並行して、亡渡辺美智雄の映像、佐川急便のトラックの模型の映像、佐川清の写真、黒塗りの自動車が衆議院第二議員会館に入っていく様子、渡辺元社長の映像、右議員会館に白い大きめな紙袋を下げて階段を上がっていく男の後ろ姿の映像及び東京佐川急便本社の映像が画面に映される。)
(中略)
(女性キャスター)
当の二人の大臣は、私どもの再度の取材に資金の受け取りを再び否定しました。
(亡渡辺美智雄)
「何の根拠でそう、でたらめをだなあ、放映したのか聞きたい。」
(記者)
「あの、議員会館で、秘書……」
(亡渡辺美智雄)
「でたらめを言うなよ、君。何を根拠にそういうことを言っているんだよ。何月、何日、誰がだ、どういうことだかはっきりして言えよ。」
(記者)
「平成二年の暮れから三年の……」
(亡渡辺美智雄)
「でたらめを言うなっていうの。だから。」
(以下略)
別紙三の三
③放送
(ナレーション)
裏金はこうして渡された。東京佐川渡辺広康元社長供述内容第二弾です。
(赤テロップで「裏金の流れ」という文字が画面に映される。)
(中略)
(男性キャスター)
自ら政治家達に巨額のキャッシュを配り回ったという東京佐川の渡辺元社長……。この人にとって、政治家というのは、どういう存在に映ったか聞いてみたい気がしますが、今日もこのニュースからです。
(「現金の渡し方」という文字が画面に映される。)
(女性キャスター)
中央政界の一二人の政治家に対して二二億円余りを提供したという渡辺広康元社長の供述内容を昨日お伝えしました。献金リストを紹介した訳ですが、このうち、渡辺元社長が一億円を提供したという渡辺美智雄外務大臣と(中略)二人の現職閣僚への現金の受け渡しの状況が関係者の証言などから明らかになりました。
(ナレーション)
渡辺美智雄氏との関係について、東京佐川の渡辺広康元社長は、「本来なら佐川清会長と親しい人」とした上で、九〇年暮れか次の年の初めに、佐川会長から、「渡辺先生が自分に会いたいと言っている。一億円でいいだろう。そちらで処理してくれ。」と電話が入ったという。
そこで、渡辺元社長は、自分のベンツに乗って議員会館の渡辺事務所を訪ね、手提げ袋に入れた一億円を渡した。このとき、渡辺氏は不在で、面識のない秘書が対応したので、「手提げ袋に自分の名刺を張り付けておいた。」と供述している。
その後、会社に渡辺氏本人からお礼の電話があったという。
(ナレーションと並行して、亡渡辺美智雄の映像、佐川急便のトラックの模型の映像、佐川清の写真、黒塗りの自動車が衆議院第二議員会館に入っていく様子、渡辺元社長の映像、右議員会館に白い大きめな紙袋を下げて階段を上がっていく男の後ろ姿の映像及び東京佐川急便本社の映像が画面に映される。)
(中略)
(女性キャスター)
この二人の大臣は、対照的な反応を見せました。まず、渡辺外務大臣です。
(亡渡辺美智雄)
「何の根拠でそう、でたらめをだなあ、放映したのか聞きたい。」
(記者)
「あの、議員会館で、秘書……」
(亡渡辺美智雄)
「でたらめを言うなよ、君。何を根拠にそういうことを言っているんだよ。何月、何日、誰がだ、どういうことだかハッキリして言えよ。」
(記者)
「平成二年の暮れから三年の……」
(亡渡辺美智雄)
「でたらめを言うなっていうの、だから。」
(女性キャスター)
お聞きのように全面否定ですが、(中略)
(男性キャスター)
渡辺外務大臣、大変お怒りのようですが、政治家が一応全面否定するのがなかなか信じられないのは、これまでにいろんな疑惑について初めは全面否定、そしてだんだん秘書や家族が出てきて一部を認めるということを何度も私たちは見てきたからであります。金丸さんのひそみにならって事実関係がどうなのかということを明確に示されたらどうなんでしょうか。
(女性キャスター)
ところで、渡辺元社長の供述の中に度々出てくる一億円入りの紙袋というのはどういうものなんでしょうか、試しに作ってみました。これ、一〇〇万円の束ですが、大体一センチ位です。一〇〇〇万円ですと、一〇センチ程になります。この一〇〇〇万円の固まりを横に二つ、縦に二つと詰めますと、丁度このようなサイズに紙袋に収まります。
ちょっと小さい感じはしますけれども、えーと、一〇キロぐらいはあるんでしょうかね。
(男性キャスター)
重いですよ。
(女性キャスター)
はい。
(画面に、机の上に一〇〇万円の束を一〇個一固まりにしたものと、キャスターの上半身に相当する程度の紙袋が映される。紙袋には透明な窓が作られ、視聴者には、一〇〇万円の束を一〇個一固まりにしたものが九個詰まっている様子が見える。)
さて、この一億円入りの紙袋を五つ受け取ったことを認めた金丸氏ですが、こうした闇献金の何が問題なのか考えてみます。
(以下略)